ここから少し離れたところに国がひとつあった。 その国は王様の統治のもとに繁栄していた。 あるとき王様は、国の繁栄を確かなものにするために、ひとつ法律を作った。 それは嘘を禁じる法律だった。 嘘がもとでおこる争いは国を弱くする、と王様は考えたのだ。 それは簡単な法律だった。
「うそをついてはいけない」
法律は国民に受け入れられ、みながそれを守るようになった。 が、やがてささいな問題が起こった。 あらゆる嘘を禁じられては困るという者があらわれたのだ。 彼らは善意の嘘、悪意のない嘘なら許されるのではないかと王様に申し出た。
「私は医者をやっていますが、不治の病に侵された患者に、真実を伝えるなんてことはできません」
王様は彼らの言い分をもっともだと思い、法律に少し変更を加えた。「悪意のあるうそをついてはいけない」
変更は国民に受け入れられ、みながそれを守るようになった。 が、やがてささいな問題が起こった。 嘘をいった者と、いわれた者の間で論争が起こったのだ。
「私は悪意のないうそを言いました」
「いや、この人は悪意をもってうそをいいました」このような論争はしばしば起こり、そのたびに仲裁者が間に入って判定を下した。 仲裁者の仕事は、少しずつ増えていった。 やがてこう言い出す者があらわれた。
「はたして私の言うことが、禁じられた嘘なのかどうかを知るために、なんらかの基準を設けてほしい。 そうすれば仲裁者の手を煩わせることもあるまい」
こうして、法律には細かい規則が付け加えられていった。 それらは主に、仲裁者の経験から選別された嘘について述べられていた。 例えば医師の告知に関する条項はこうだった。
「第128条4項:医師はその必要がある場合、患者に嘘の病名を告げてもよい。 ただし第128条1項に反する場合は別である」
国民は、言葉を選ぶようなときには必ずこの法律に目を通した。 新しい事例は次々に加えられ更新されていたので、やっかいな問題はほとんど起こらなくなった。
こうして多大な努力の上に、国は繁栄していった。
おわり