テレビ

僕は強度のフリッカーである。 フリッカーというのは、めまぐるしくチャンネルを変えるため、画面がチラチラ落ち着かないという意味だ。 つまり僕は、ひとつのチャンネルを見続けることのできないタチなのである。 うちにあるテレビのチャンネルは、プラスボタンを押すと次のように変化するよう設定してある。

1 → 8 → 3 → 4 → 10→ 6 → 12 → 8 → 4 → 10 → 42 → 12

これは僕同様フリッカーの友人に教わったアサインで、ボタンをバシバシ押し続けることによって、どのポジションからでもさっさとチャンネルを選択できるような工夫なのである。 もちろんみたい番組があれば、ダイレクトにチャンネルを指定すればよい。 だがフリッカー状態で流し見するときは、このアサインが非常に便利なのだ (しかも慣れてくると、今のポジションから好きな番組にさっと移行できてしまうようになる。 ボタンを探して手元を見るより、決まった回数だけ同じボタンを押す方が早いのだ)。

フリッカーというのは、一人でテレビを見ているときは問題ないのだが、他人と一緒に見ているときには大問題になる。 フリッカーは、番組がつまらないとみると1、2秒しか経過していなくてもさっさとチャンネルを変えてしまう。 この判断に要する時間と基準は完全に主観的、家族だろうが恋人だろうが誰の同意も得られないほどわがままな行為なのである。 そこで我慢して一定の番組を見続けようとすると、これがフリッカーにとっては大変な苦痛なのだ。 フリッカーがチャンネルを変えるのは「もしかしたらよそのチャンネルではもっと面白い番組をやってるかも」と思うからであって、要するに今見ている番組に飽きてしまっているのだ。 見たくない番組を見続けるのは、すなわち拷問である。 こんなことに長く耐えられるわけがなく、じゃあテレビ消そうかということになる。 こうして、フリッカーはテレビを見なくなってしまう。

むろん、テレビをつければ常にフリッカー状態なのかというと、そうでもない。 おもしろい番組が見つかれば、それを見続けることはやぶさかでない。 最近見ている番組は、ニュースか映画かスポーツ(バスケット)だ。 ただしこれもCMが入るとオシマイで、とたんにフリッカー状態に陥ってしまうのだった(しかも5分たっても抜け出せず、見たい番組が始まってしまっているということもよくある)。

このフリッカーというのは、どうやら一般にもじわじわと広がりつつあるらしい。 常に切り替えつづけるというほどひどくはないにしても、少しでも番組がつまらなくなったり、CM になったりしたとたん、さっさとチャンネルを変えてしまう人が増えているのだ。 番組側は、チャンネルを変えられてはたまらないので、いろいろな手段を使って切り替えを阻止しようとしているらしい。 例えば CM が何秒続くかを予告してしまうやり方。 これってスポンサーからクレームつかないのかな? 他に、よそから切り替えてきた人を捕らえるため、CM の直後に直前の30秒ぐらいを再放送するやり方。 …これは連続してみている人には苦痛以外の何物でもないのだが、 きっと捕まえるためにやっているんだろうなあ。 だって「もう忘れちゃった人のために…」なんて親切心でやってるとは思えないし。 そういえば昔、ザッピング TV なんて企画もあったが、一度きりで二度と行われないところをみると、どうやら全然ウケなかったらしい。 フリッカーというのは基本的にはわがままから来ているのだから、うまくコントロールしようなんて考えが甘いんじゃないか、と僕は思う。

まあこのような現象も、何はともあれテレビがつまらないからであって、ちゃんと視聴者を釘付けにできる面白い番組を作ればいいわけだ。 でも今のテレビには、きっと無理だろうなあ。

Aug-25-1997


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