嘘をつく者(その5)

ここから少し離れたところに国がひとつあった。 その国は王様の統治のもとに繁栄していた。 あるとき王様は、国の繁栄を確かなものにするために、ひとつ法律を作った。 それは嘘を禁じる法律だった。 嘘がもとでおこる争いは国を弱くする、と王様は考えたのだ。 それは簡単な法律だった。

「うそをついてはいけない」

法律は国民に受け入れられ、みながそれを守るようになった。 が、やがてささいな問題が起こった。 あらゆる嘘を禁じられては困るという者があらわれたのだ。 彼らは善意の嘘、悪意のない嘘なら許されるのではないかと王様に申し出た。
「私は医者をやっていますが、不治の病に侵された患者に、真実を伝えるなんてことはできません」
王様は彼らの言い分をもっともだと思い、法律に少し変更を加えた。

「悪意のあるうそをついてはいけない」

変更は国民に受け入れられ、みながそれを守るようになった。 が、やがてささいな問題が起こった。 嘘をいった者と、いわれた者の間で論争が起こったのだ。

「私は悪意のないうそを言いました」
「いや、この人は悪意をもってうそをいいました」

このような論争はしばしば起こり、そのたびに仲裁者が間に入って判定を下した。 仲裁者の仕事は、少しずつ増えていった。 やがてこう言い出す者があらわれた。

「はたして私の言うことが、禁じられた嘘なのかどうかを知るために、なんらかの基準を設けてほしい。 そうすれば仲裁者の手を煩わせることもあるまい」

こうして、法律には細かい規則が付け加えられていった。 それらは主に、仲裁者の経験から選別された嘘について述べられていた。 例えば医師の告知に関する条項はこうだった。

「第128条4項:医師はその必要がある場合、患者に嘘の病名を告げてもよい。 ただし第128条1項に反する場合は別である」

国民は、言葉を選ぶようなときには必ずこの法律に目を通した。 新しい事例は次々に加えられ更新されていたので、やっかいな問題はほとんど起こらなくなった。

こうして多大な努力の上に、国は繁栄していった。

おわり


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