恐るべきは無知なる者

「原子炉だって?」
ガッチャは思わず聞き返した。
「そう、原子炉だ」
タンは音節をくぎって、はっきりと発音してみせた。 ガッチャは皮張りの大きな椅子にどさっと身をうずめた。
原子炉は、今では隈雑な意味しかもたない言葉でしかなかった。 十二年前に起こった原子力発電所の爆発によって、人類文明は地球上から消滅しようとしていた。 強烈な放射能が、文字通り人類を消し去ろうとしているのだ。 十二年の間に七割の人間が死に、残りのほとんどの人間も余命いくばくもないほど放射能に侵されていた。
そんな中でも <エヌ市> だけは、その気候と地勢によって放射能の影響をまぬがれている唯一の都市だった。 最初の数年を生きのびた人々は <エヌ市> に集まり、放射能に呑まれてしまう前に生きのびる手段を編み出そうと努力していた。 <エヌ市> もいずれは許容量を越えた放射能を浴びてしまうだろう。 しかし、それまでにはまだ時間がある。 <エヌ市> の住人たちは放射能に耐えるだけの地下都市を建造しようとしているのだった。
そんなとき、タンが持ってきた情報はまだ稼働中の原子炉が、よりによってこの <エヌ市> の近郊二十キロメートルの地点に存在するというものだった。
「なんで今まで分からなかった?」
「さてね」
タンは地図を睨むと、顎をさすりながらいった。
「このあたりはほとんど未開発だったし、いまは市内の開発で手がいっぱいだからな。 外の世界に感心を持つ余裕なんてないのさ。」
「二十キロといえば、目と鼻の先だ」
「まぁそうだがね。以前と違って、二十キロは遠い距離だからな」
ガッチャはため息をついた。最近彼を悩ます問題は増える一方なのだ。 例えば外界からの人口の流入がそうだ。 <エヌ市> はいわば人類文明最後の砦だったから、自分の住む街を追われた人々が次々にやってくるのは当然のことだった。 しかし、 <エヌ市> が養える人口には限りがある。 しかも、外界からやってくる人間は、少なからず放射能の影響を受けている。 そういった人々すべてを受け入れる訳にはいかず、ほとんどを拒絶せざるを得ないのだった。 それでも多くの人々が警戒線を越えて進入している。 このまま放置すれば、じきに都市機能がマヒしてしまうだろう。 その上、またやっかいな問題が増えてしまったわけだ。 ガッチャは憂鬱そうに口を開いた。
「それは今でも稼働しているのか?」
「ああ、そうだ。それは確認している」
「いったいなんのために?」
「わからん。管理しているのはコンピュータだ。そいつにきいてみないとな」
「どこの誰が作ったのか、それはわからないのか?」
「それもわかっていない。 問題なのは、そこに原子炉があって、それをコンピュータが管理しているということだ」
十二年前の事故の原因は、一般には原子力発電所を管理するコンピュータの暴走と、それにともなうメルトダウンだと信じられていた。 ガッチャはそれを知っており、だから原子炉もコンピュータも嫌っていた。 <エヌ市> には高度に発達したコンピュータ・ネットワークと労働のためのロボットがあるが、ガッチャはそれさえも嫌っているほどだ。
しかし実際の原子力発電所の事故のは、爆弾テロによるトラブルが原因で起こった人災だった。 そのことを知る人間は、今ではみな死んでしまっていた。 ほとんどが爆発した原子力発電所の近くにいたので、他の人にそれを伝える間もなかったのだ。 そういうわけでガッチャの嫌悪は的外れなのだが、事実を知らない彼を責めるわけにもいかない。
「とにかく、止めることが先決だな。なんとかして止めなければ」
「そうだ、それこそが肝要だね」
「よろしい、私も同伴するとしよう。君は当然ついて来るんだろうね?」
「もちろん」
「他のメンバーは?」
「ギュエス。奴ならコンピュータを止められるだろう。それとラー」
「ラー? なんであいつを連れていかなきゃならないんだ?」
顔をしかめるガッチャに、タンは言った。
「原子炉を守る設備があるかもしれん。 警備ロボットとか、レーザーとかね。 ラーが気に食わないのは私も同じだが、彼は武器の扱いに慣れている。 バイオレンスは彼にまかせておきたい」
「ギュエスは? 彼が使いものになるのか?」
「おそらく、まだ大丈夫だ」
ギュエスは事故以前から <エヌ市> に住んでいるコンピュータ技術者だった。 事故以来、 <エヌ市> の都市機能維持に尽力を注いできたのだが、放射能の影響で精神錯乱に落ちいっていた。
「彼はすっかり社会生活から落後してしまったが、彼の行う仕事だけは、まだ評価できるレベルにある。 それに、おそらく原子炉のコンピュータの相手ができるのは、今ではもう彼だけだろうな」
ガッチャはしばらく考え込んだ。それからすっと立ち上がっていった。
「よろしい、さっそく出かけよう」


二十キロの道のりを、四人は自分達の足で歩いていった。 <エヌ市> では一般的なエレカーは、市外では使えないと思われていたからだ。 実際にはエネルギー転送技術によって、五十キロの範囲ならエレカーを利用することができた。 しかし、その技術を維持するための人員はすでになくなっていた。 四人は他によい方法があることも知らず、えんえんと目的地まで歩き続けた。
タンはずっと無口だった。 彼はいつもそうだ。 ガッチャは <エヌ市> の将来を憂い、重い気分をひきずりながら歩いていた。 ラーは山ほど武器を抱えてピクニック気分で歩いていた。 この行程を楽しんでいるのはラー一人だけだった。
ギュエスはぶつぶつと独り言をつぶやいたり、ときおりふと足を止めて空を見上げたり、一度は奇声を発して座り込んだりした。 他の三人はそのまま置いていきたい衝動にかられたが、ある意味ではギュエスを連れていくのが目的なのだから、そんなことはせずに我慢強く説得を続けた。
「なぜわしが行かねばならんのだ?」
ギュエスは泣き出しそうな声で文句を言った。
「あんたしか止められる人間はいないんだよ」
「止めるって、何をだ?」
「いい加減にしろよな」ラーがいらだったようにいった。「何度も言ってるだろ、糞いまいましいコンピュータを止めにいくんだよ」
「なぜわしが行かねばならんのだ?」
「あーもう、こんな奴にいくら説明したってむだだよ」
「まあいい、とにかく先へ進もう。話は目的地についてからでもできる」
ガッチャはそういって、ギュエスの腕を引っ張った。
やがて、原子炉のある地点にたどりついた。 それは深い森林のなかに、隠れるように建てられていた。
「ここがそうか?」
「ああ、そうだ。あそこから中に入れる」
タンが指さしたのは、建物へ続く門だった。門の付近の道路はある程度手入れされているようだったが、もう何年も自動車の通った後はなく、なんとなく植物に押し潰されそうになっていた。
四人が門をくぐると、建物の方から一台のロボットが近付いてくるのが見えた。 ラーがすかさず銃をかまえたが、ガッチャがそれを制した。
ロボットは三メートル程はなれた場所で立ち止まると、先頭のタンに向かって話しかけてきた。
「この建物は立ち入り禁止です」
「立ち入り禁止だと? ふざけやがって…」ラーが横から口をだした。
「申し訳ありませんが、許可のない方は場内に入れないのです。 管理上の都合ですが、どうぞご理解いただきたい」
ガッチャはギュエスの方を振り向いていった。
「こいつをなんとかできるか?」
「どうしろというのだ?」
「どうでもいい、とにかく中に入りたい」
「なんで中に入りたいんだ?」
「理由はどうでもいいだろう? とにかくこのロボットを黙らせて、中に入ってからだ」
ギュエスはぽかんとガッチャの顔を見ていた。 そして突然、きびきびとした動作でロボットの腕をとった。 なぜかロボットはそれに抵抗しなかった。
ギュエスはコントロールパネルを開け、小さなキーボードからいくつ かの命令を入力した。それから再びパネルを戻して、ロボットの正面に 立った。
「中に入りたい」ギュエスはそっとロボットに向かって話しかけた。
「こちらへどうぞ」
ロボットはくるりと振り向いて、建物の方へがたごとと進んでいった。 ギュエスはその後ろについていった。 残りの三人は慌てて後を追いかけた。
玄関を入り、人のまったくいないロビーを抜けて、四人はひとつの扉の前に案内された。 その扉にはノブがひとつあるだけで、他にはまったく飾りがなかった。 扉の横には、双眼鏡を埋め込んだような装置が一つ置かれていた。
「照合します。登録者はどうぞ」
ギュエスは再びぼおっとしていたが、ロボットにせかされて思い出したようにその装置の双眼鏡をのぞき込んだ。 それは網膜パターン検出装置だった。 しかし、ギュエスを含めて全員が、その装置の役割を理解できないでいた。
ピピッと電子音がして、扉の鍵がカチリと開いた。 ガッチャがノブを回すと、扉はなんの抵抗もなく開いた。 四人はそれぞれ扉をくぐった。 ロボットは四人が通るのを確認すると、外から鍵をかけていった。
「出れるのかな」ラーが心配そうにいった。
「なに、ギュエスがいる限り出られなくなることはないだろうよ」ガッチャはそういって先に進んだ。
結局、なぜギュエスが登録されているのかを疑問に思うものは一人もいなかった。


四人はやっとのことでコントロール室にたどりついた。 そこは巨大なディスプレイスクリーンと、いくつものコンピュータ端末を備えた部屋だった。 しかし洗練されたデザインは、その部屋にある装置の規模とは裏腹にこぢんまりとした印象を与えた。
ガッチャはその部屋の持つ理解し難い雰囲気に圧倒されていたが、やがてギュエスにむかって命令した。
「さあ、原子炉を止めるんだ。ここからなら、どんなことでもできるはずだ」
ギュエスはぎろりと目をむいた。
「なぜ原子炉を止めるんだ?」
「なぜって…、危険だからだよ。あんたもそれは分かっていると思うが」
「原子炉が? 危険だって?」
「そうだ。放射能が我々を滅ぼそうとしているんだぞ」
「しかし、事故は起こっていないぞ」
「なにいってやがる、この老いぼれめ!」ラーが怒りをあらわにして叫んだ。
「事故は起こっていない」ギュエスはスクリーンに視線を走らせていった。 「稼働率はやや落ちているが、出力は安定している…。 トラブルはすべて人工知能が片付けている。申し分のない成果だ」
「申し分ないだと? 原発事故を忘れたのか? あれから何人死んだと思ってるんだ? いい加減にしやがれ!」
「やめろ、ラー」タンが間に入った。 「ギュエス、我々はこの原子炉を止めなければならない。 もしここの存在が市民にしれたら、みな感情と恐怖にかられて、ここを破壊しようと押しかけるだろう。 しかし、そんなことをすればまた再び放射能漏れが起こるかもしれない。 止める方法があるのなら、ゆっくり確実に止めたいのだ」
ギュエスはタンの顔を見つめたまま、凍りついたように立ち尽くしていた。タンはかまわず先を続けた。
「分からないか? 人々が手に手に武器を持って、ここへ押しかけてくるんだぞ。 そうなれば何が起こるかわからない。 群衆は炉心に穴を開けてしまうかもしれない。 そうなれば <エヌ市> は絶望だ」
「なぜ止めなければならんのだ? 今でさえ、市民はここのことを知らないはずだ」
「いつかは知られてしまう。それを止めることはできない」
ギュエスは首をふった。 それを見ていたガッチャが、横から口をはさんだ。
「いや、だめなんだギュエス。 ここの秘密は暴かれた」
「なんだって?」
「原子炉が稼働していることは、すでに市民に知られているんだ。 我々は彼らと約束をした。 ここを安全に止めるとな。 もしその約束を守らなければ、ここを爆撃してやるという過激なグループがいるんだ。 だから、いそいで原子炉を停止して、戻らなければならないんだ」
もちろんこれははったりだった。 しかし、それは効果を現した。ギュエスはふっと表情を曇らせ、ゆっくりと端末の方へ体を動かし始めた。
「なんということだ、なんということだ…」
ギュエスはがりがりに痩せた指をキーボードに這わせた。 端末のディスプレイに灯がともり、文字が流れるようにあらわれ始めた。 ギュエスはひとしきり端末を操作すると、やがてガッチャの方を振り向いた。
「コンピュータが命令を拒絶している」
「なんだって?」
ガッチャは横からディスプレイをのぞき込んだ。コンピュータの返答は平易な文章で、ガッチャにも理解することができた。 そこには確かに、原子炉を止められないという拒絶の意志表示があった。 命令を無視するコンピュータが目の前にあって、そいつが原子炉を管理している。 十二年前の再現になるのだろうか、とガッチャは背中に冷たいものを感じた。
「なぜ止められないんだ?」
ギュエスは反射的にガッチャの言葉を入力した。 コンピュータはしばらく考えて、再びメッセージを出力してきた。
「原子炉の安定動作は目下の最優先事項であり、それを覆すデータはない」
「命令は変更だ」
「変更の手続きは完了していない」
「すでに発行されている。受領まで待つことはない」
「受領されていない限り、実行はできない」
タンが口をはさんだ。
「これではらちがあかないぞ」
「しかし、他にどうしろっていうんだ?」
そのときだった。 突然ドアが開いて、二台のロボットが部屋に入ってきた。 端末に向かっているギュエス以外の三人は、ぎょっとしてロボットのほうを振り向いた。
「お手数ですが、みなさんIDの提示をお願いします」 ロボットは彼らに向かって丁寧に話しかけた。
「IDだと?」
「そうです。現在警戒レベル <イエロー> が発令されています。 全員身分と所属の提示を…」
ラーはマシンガンを構えると、そのロボットに弾丸をぶちこんだ。 ロボットは後ろへふっとぶと、大きな音を立ててコンソールに倒れ込んだ。 流れ弾があちこちにあたって火花をまきちらした。
「やめろ!」ガッチャは大声を出してラーを制した。 「何をするんだ、コンピュータが破壊されでもしたら、原子炉を止められなくなるぞ」
「しかたないだろ! ああでもしなきゃ追い出されちまう…」
「そうだな、でもこれで確実に追い出されるぞ」
もう一台のロボットは、黙って成行きを見守っていた。 それから破壊されたロボットとほとんど同じ口調で話はじめた。
「原子炉を停止しようとしているのはあなたたちですね」
ガッチャはなんと言ってよいのかと迷ったが、仕方なく正直に答えた。
「そうだ、われわれは原子炉を止めにきた」
「その要求は了承できません。 もしこの原子炉が止まってしまっ…」
そこまで言って、突然ロボットは口を閉ざした。
「今警備体制を解除した」ギュエスがぼそっとつぶやいた。
「ほんとか? やったぜ!」ラーは飛び上がってよろこんだ。 タンは心配そうにディスプレイをのぞいた。
「どうやったんだ?」
「優先度の高い命令シーケンスを用意した。 管理情報を書き換えればすむことだ」 ギュエスは恍惚とした表情でコンピュータをあやつっていた。
「これで…炉も停止するはずだ」
ギュエスはぴたりと手を止めて、ガッチャの方へ顔を曲げた。
「ひとつ問題がある」
「なんだ?」
「いったん炉を止めると、二度と臨界に持っていけなくなるということだ」
「どういう意味だ?」
「もう一度核融合を起こすために必要なエネルギーを確保できないと人工知能が言っている。 ここは最後の砦なのだ。 だからこそ、ここの保守と維持が最優先事項なのだ」
「ここはもう必要ない」ガッチャは吐き捨てるようにいった。 「いまさら原子炉に頼る必要はない。 われわれは自活した都市を持っている。 この原子炉には目的がない。 一度止めれば、二度と利用されることはない。 再度臨界に持っていくなんて、そんなことは問題にならない」
ギュエスがまた凍りついた。 何かを考えているのか、それとも何も考えてはいないのか、誰にも判断できないような表情だった。 長い間ギュエスは動かないでいた。 それからギュエスは命令を下した。スクリーンの表示がぱぱっと変わった。
「止まった」
ギュエスはそっとつぶやくように言った。


四人はとぼとぼと帰りの道を歩いていった。 やがて日も暮れて、星がまたたき始めた。 四人は何も言わず、どんどん歩いていくだけだった。
やがて街も見えてくるだろうというころ、ガッチャは妙に空が明るいことに気づいた。 山の向こうの空が、赤い色に染まっているように見えるのだ。 タンやラーも、同様に空の異常に気づいていた。
「なんだろう?」
「街の灯なんじゃないのか?」
「あんな風に見えることはない」タンはそっけなく言った。
四人は急いで山を越えた。 山の上から、 <エヌ市> の全景を見渡すことができるのだ。 四人は頂上を越え、そして息を呑んだ。
街のあちこちから火の手があがっていた。 あちこちから物の壊れる音や、誰かの悲鳴が聞こえてきた。 暴徒の波が建物の間を駆け抜けるのが見えた。 そこはすでに都市ではなかった。
「あああ、なんということだ」ギュエスが声をあげるのを聞いて、三人は驚いて彼を見た。 ギュエスの目には三人が見たこともないような閃きがあった。 燃える都市を見たギュエスの心に、再び知性が舞い戻ってきたのだ。 ギュエスは悲鳴に近い声で叫んだ。
「発電所が止まったに違いない!」
「発電所だと?」
「絶対に止まるはずはないのに! 絶対に止まらないはずなのに!」
「どういう意味だ?」
「誰かが止めたに違いない。爆弾テロか? またしても警備網は破られたのか…。 以前の反省は生かされなかったのか」
「なんの話をしているんだ?」
「しかし、そんなはずはない…。我々は計画を立てた。 正しく働いているはずだ。まさか、だれかが裏切って秘密を売ったのか…。 なんにしても発電所が止まった…」
ガッチャにはギュエスの言葉が理解できなかった。ラーにも分からなかった。タンだけが、ギュエスの言葉を理解した。
「なんということだ!」
<エヌ市> を維持しているエネルギーは、すべて核融合反応炉が作り出す電力でまかなわれていた。 都市は高度に機械化されており、それを維持するためのエネルギーは莫大なものだったのだ。 人工知能が管理する発電所は、需要に見合ったエネルギーを安定して生産することが可能だ。 しかし <エヌ市> の都市計画グループは、この発電所を設計するにあたってその存在を秘匿したのだ。 それというのも、原子力発電所の安全性に関しての社会的同意は得られておらず、またそれを認めてもらうにはまだまだ時間がかかりそうだったからだ。 そこで当座のしのぎとして、当時の最高技術を結集した安全装置を備えた発電所を作り、それを秘匿したのだった。 だってそうだろう、もし原子力発電所によって維持されていると知ったら、住民が黙ってはいないはずだ。 それは十二年前の事故の後も正しく働いてきた。 ギュエスのような優秀な技術者の支えもあって、申し分のない効果を発揮していたのだ。
文字通り、その発電所は都市の心臓であった。 しかしその心臓は止まってしまい、都市機能はあっというまに凍りついたのだ。 夜になり人々が暴徒と化すのに、それほど時間はかからなかった。
ガッチャの生きのびたいと努力は、まったくの徒労に終わった。 それどころか、彼自身の手で都市を殺したのだ。 しかし、真相を知らない彼を責めることは、おそらく誰にもできないだろう。

それに、そんなことはもう問題ではなかった。

おわり


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