よっぱらい

そのよっぱらいは……いや、酔った男なんて、どれも似たようなものだ。 とにかく酔った男がいて、しかも行きずりの女にからんでいた。 直樹はそのままにしておけず、その男に向かっていった。

「おっさん、そんな女の人にからんじゃだめだよ」
「なに〜」

男は酒臭い息を吹きかけてきた。

「なんだお前」
「なんでもいいでしょ。あんた、酔って人に迷惑かけちゃだめだよ」
「ん〜、何が迷惑だってぇ」
「もう、よっぱらいはこれだから困るね。そんなにからんじゃ相手に迷惑でしょ」
「誰がよっぱらいだとぉ」

男はふらふらと直樹の方にやってきて、肩につかみかかってきた。 しかし力が入らないらしく、振り払おうとすれば簡単にできる程度だった。 解放された女の方は、そのまま立ちさってしまうわけにもいかず、心配そうに二人を見ている。

「あんた酔ってるでしょ、酒飲んでさぁ」
「あ〜ん、これくらいで酔うわけないだろ〜」
「酔ってるってば、ほんとに」
「酔ってないぞぉ」
「酔ってるよ、まったく。自分で酔ってないと思ってるだけでしょ」
「だ〜から、酔ってないって」
「うう、酔ってる奴に限って自分は酔ってないとかいうんだから、もう。 人の忠告は素直に聞いた方がいいよ」
「なんだとぉ」

男は不意に、直樹の顔をのぞき込み、そして大声でいった。

「そういうお前こそ酔ってるだろ」
「はぁ?」
「いーや、酔ってるね。わたしにからむなんてとんでもないやつだ」
「ちょっとちょっと、僕は酔ってなんかいないよ」
「うそつけ」
「うそじゃないって」
「はーっはっは、酔ってない奴に限って自分は酔ってない、とかいうんだもんな、笑わせるよなぁ」
「そんな屁理屈言ってごまかそうったってそうはいかないよ」
「何をいうか、お前の……」

酔った男はくるりと後ろを向くと、ふらふらと歩きはじめた。 角を曲るころには、直樹のことはすっかり忘れて、大声で演歌を歌い始めた。

おわり


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