その迷子の女の子は、一言も口を聞こうとしなかったので、年齢はもちろん名前も住所も分からなかった。 直樹はけっこう面倒なことになったな、といまさらながら後悔していた。
交番の警官は、直樹に向かっていった。
「……で、あのあざはいったいなんなんだね?」
「さぁ。僕が見たときには、もうついてましたけど。転んだかなんかしたんじゃないんですかね」
「あれはかなりひどくぶたないとつかないあざだよ。転んだといってもねぇ」女の子の頬は青くあざになっていて、みるからに痛々しいものだった。
「と、僕に言われてもねぇ。あの子に聞けばいいことでしょう」
「だって、話してくれないんだよ」きっとあんたが怖いのさ、と直樹は反射的に思ったが、口にはださなかった。
「とにかく、迷子ということで預けたいんですがね。僕だって学生といえども、そんなに暇じゃ……」
突然、ピシリと大きな音がした。直樹と警官は、ぎくりとしてそちらの方を振り向いた。そこにはいつのまにか現れた、女の子の親らしき女性がいた。
彼女はもう一回女の子の頬をたたこうと、腕を振り上げているところだった。
おわり