前後

駅のホームの表示板に「こんど」と「つぎ」というのがある。 「今度の電車は2番ホーム」「次の電車は3番ホーム」のように、先に出るホームを教えてくれる表示なのだが、果たして「こんど」と「つぎ」ではどちらが先なのだろうか? 答えは「2番ホームの方が先に出る」のだが、そう言われてもピンとこない人の方が多いだろう。 試しに明解さんに尋ねてみると、

こんど[今度]
(一)何度か行われている物事のうち、現在・行っている(行ったばかりの)もの。「─に限ったことではない」
(二)…
(三)近い将来に実現されると予想されることを取り上げていう語。「─アメリカに行くことになりました・─[=この次]こそはしっかりやろう」

つぎ[次]
(一)あとにすぐ続く・こと(もの・所)。「─の世代・─に控える・この─」
(二)…

ということだった。 今度にはまさしく「次」という意味もあるのだが、ここでは(一)の解釈をすべきだということなのだろう。 でも用例からみて「今度の電車」は(三)に違いなく、そうすると区別がつかないようにも思える。 いずれにしても正解がどちらであっても紛らわしいことに違いはない訳で、「先発」「次発」とかにしてもらったほうがありがたい。

似たような話に渋滞情報というものもある。 ラジオで流れている渋滞情報を聞いていると「綱島を先頭に渋滞3キロ」などと言われるのだが、これには2通りの解釈がある。

  1. 綱島まで行くと渋滞に巻き込まれ、3キロ先まで続いている
  2. 綱島の3キロ手前で渋滞に巻き込まれ、綱島まで続いている

「渋滞の先頭とは始まる地点をいうのだ」ということであれば最初の解釈が成り立つが、 「先頭とは前方のことだ。当事者から見て前方とは現在地点から遠い方だ」ということならば後者が成り立つわけだ。 さて、いったいどっちが正解なのだろう? なんと、日本高速道路公団と首都高速(を管理するどっかの団体)では、この解釈が異っていたのだ。 しかもどちらも「こっちが正しい」といって譲らなかったのだが、 でもやっぱり不便なので最近統一したという。 もっとも、どちらになったのかは忘れてしまったので、例えば東名高速を走っているとき「123キロポスト付近を先頭に、15キロの渋滞です」と言われても果たしてどこから15キロなのか分からないという情けない状態なのであった。 まあ、たぶん123キロポストまでいくと渋滞に巻き込まれる、ということなのだろうけど。

さて、僕は今これを Emacs (Mule) を使って書いている。 ご存じの通り Emacs では、カーソルを右に動かすには ^F、左に動かすには ^B、上には ^P、下には ^N キーを使う。 これはそれぞれ Forward、Backward、Previous、Next から来ている。 つまりカーソルは編集している文章の先頭から末尾に向かって動いていくものであるという認識だ。 これは普通のシーケンシャルファイルの考えからみればごく当たり前の解釈だ。 が、普通「前」と言われて末尾の方向を指すというのは、どうも不自然な気がしないでもない。 それは渋滞の「先頭」が手前にあって、ちょうど道路の上で口を開けて待っているヘビのような感じに似ている。 ヘビだけは、車の向きとは逆に「後ろ」を見ているのだ。 もっとも、先頭を見つめながら末尾に向かって後ずさりしていく姿というのも想像すると気持が悪いので、「まあ世の中そんなもんか」と思って気にしないのが一番なのかも知れない。

Jan-04-1998


[prev] / [next]
[back to index]